香りを聴く

土曜日は披講学習会の有志による香りの席があったので、出席させていただいた。前回は名香「塩竈」にちなむ香りの会だったが、今回は古今伝授にもある「三鳥」などの聞き会。香では香りを嗅ぐとは言わず、聞くというらしいが、確かに香りを嗅いでいる姿は音を聞いているようにも見える。私はまったく正解がなく、わずかにその香りはなかった、、、という場面で正解が一つあったのみ。確立で言うなら、誰もが66.6パーセント当てられる場面で一度当てたきりというお恥ずかしい結果でした。すべて正解された方も3名ほどいたのだからその差は歴然。弁解ではないが、私は西洋のアロマに関してはその香り、違い、が混合ブレンドされたものでもかなりわかる方である。ああ、ラベンダーとネロリですが多少古いグレープフルーツも入ってますね、、、などというレベルまでわかったこともあるのに、お香ではまったくダメだった。すべて同じように感じるのだからそれはデリケートなものだと思う。香りを覚えるには、そのイメージを人や動物、植物、そして時間や感情に代替させてイメージ化するらしい。たとえば、これは私の恋人が遅刻をしてきて怒ったものの走ってきたようで息が切れていたので許してあげた時の気分に似ている香りだ、、、というようなこともあるということである。あてずっぽうなようでいて、正解がわかる人もおり、単なる偶然とは違う、奥の深さだろう。しかもそれは遊びである。遊びだからこそ深くなれる。「三鳥」は古今伝授の中にあるというらしいが、古今伝授とは、日本の古い伝統文化の本質を一子相伝によって伝える秘儀である。和歌の作り方や歌い方、すなわち披講についてもその神髄が伝えられていたようだ。その昔、細川幽才が古今伝授をしていたおり、豊臣と徳川の争いが始まり、幽才の城は敵方に完全包囲されてしまう。絶体絶命のピンチに、なんと天皇が介入する。武家同士の争いに天皇が介入をはかるのは、後にも先にもこの時だけ。「幽才を打ってはならぬ」の天皇勅旨が告げられるが、その理由は「幽才は古今伝授の家である。幽才を打ったら古今伝授が途絶えるので、打ってはならない。」というものだった。こうしてまで守られたのが古今伝授であり、和歌や披講の奥義だった。その後古今伝授は宮中に入り、民間の預かり知らぬところとなるのだが、日本が文化をいかに大事にし、その中でも和歌がどんなに大切だったかを教えてくれるエピソードだ。その和歌を歌うことを披講というのだが、これを民間で教える唯一の会が、私が主宰する「星と森披講学習会」。日本の文化の中心的な核にあたるものであるにも関わらず、和歌は俳句などにくらべてその人口も少なく、まして、披講になると、それができる人は日本全体でも200人にも満たないという現状がある。しかしたとえ現状がそうだろうとも、では、和歌を歌うことにもう力がなくなったか、と言えばそうではない。千年前から変わらぬ力がそこにはある。むしろ、和歌を歌わなくなったから、和歌の力が、そして日本語の力が弱っていったと私などは考える。命あるものは昔も今も命をもっている。このことを多くの人に知ってもらい、ひとりでも多くの方が和歌や披講に関心を抱いていただけたらこんなにうれしいことはない。和歌を披講し、幾多の霊魂を慰める仕事もこれからは必要だろう。元神明神社における千年祭における奉納披講では、元神明神社創建の勅旨をだされた一条天皇の和歌、すなわち御製だが、を披講したが、それまで晴れていた空が一転にわかに曇り、真上から落ちてきた稲妻を皮切りにこれまで体験したことのないような雷を見た。それは奉納披講の間中鳴り響き、途絶えることはなかった。奉納披講にあずかった6人のメンバーは驚いたものの、なぜか、もっともっと、早く、待っていた、、、というような声というかイメージをそこから皆共通に受け取った。和歌を歌うことを待っている霊たちがこの日本にはたくさんいるのだ。本来は宗教がそうした役割だったのかもしれないが、すでにそうした機能を果たしていないのではないだろうか。芸能には霊魂を慰める働きがあるのだがその神髄はやはり歌にある。人間が作った神々が滅びゆく現代において、霊魂が求めるものは歌を通して出てくる現代人の情けであり、そして過去の人への思いであろう。今回の香りの会では、正解を和歌で披講するような遊びになったが、香りに漂う古い昔の記憶、そこに息づいている過去の人々の歴史や思い、、、それに今生きている者たちが歌を歌うことでつながり、和解していく。それを遊びとすることでけれんみのない、エネルギーの再生が行われていく。もうすぐ、宗教の時代的役割よりも文化の役割が勝っていく姿が見えるような気がした。あなたもぜひ、星と森披講学習会に入って、一緒に歌を歌いませんか。

星と森披講学習会入会案内

毎月第一水曜、第三水曜の午後6時半から8時まで
港区三田にある、「元神明宮」の1階、元一会館にて学習。
入会金無料 費用は学習会に出席の都度、2000円を徴収。学生は1000円。初回は見学無料です。
お申込みはショップ欄のメールにてご連絡ください。

現在の会員の年齢は20歳前後から70歳代まで広い分布です。男女比は女性優位。歌が下手でもまったく関係なく、それぞれのそれなりの味わいがあります。唯一の披講の研究で知られる、青柳隆志教授他による指導。現在会員数 約50名
さらに詳細はショップ欄で

「和して歌う」が学習会から出版されました。350円
披講について語られた小冊子44ページです。こちらもショップ欄のメールにてお申し込みできます。