箱根の湯
今、箱根から戻ったところ。箱根はよく行くが、中でも私のお気に入りは芦の湯。江戸時代、箱根七湯と言われるランクづけがあり、その中のナンバー1は芦の湯であった。この格は今でも通用すると私はおもっている。湯量が豊富。日々泉質がデリケートに異なるのも楽しいし、なにより硫黄泉でありながらアルカリ性というのは日本でもただひとつのものだとか。と言って、私は足の湯で優雅に温泉を楽しんできたわけではない。一泊目が短歌大会の最終選考会、二泊めはさらに厳しいハードなスケジュールであった。結局、狭い自分のオフィスにいるのが一番おち着くという貧しさである。しかし何百年もの間、一秒も途切れることなくああいういい湯が湧き出てくるとは、ほんとうに素晴らしいことだと思う。大地の女神の恵み以外の何者でもない。同行の人はあまりに気に入って、2泊で15回も風呂に行き、最後は湯あたりで倒れていた。こうなると優雅というよりなんだかお気の毒だが、性分によるものだろう。その昔、四こま漫画で、温泉に行き、宿代の請求書を見た直後、あわてて服を脱いで帰る前にまた風呂に入る、というのがあって面白かった。私は信州の温泉はかなり回ったが、東北のひなびた温泉を旅して回ったらどんなに楽しいだろうかと、毎年思う。現代人はとにかく忙しすぎる。こんなに忙しくしていて、かえって豊かさから遠ざかってしまっている。私の父など、数十年前には、風邪をひくと、一週間ぐらいはおとなしく寝ていた。そして何日目かには回復し、以前よりも数段健康になって復活していた、、、そんな記憶がある。いま、かぜで一種間寝ていられる人が何人いるだろうか。まず無理であろう。平均寿命が延びているとはいえ、それは私の父などの、そうした年代の人のことであって、私たちやさらに若い世代の平均寿命がさらに延びるとはどうしても思えない。箱根の湯につかりながら、そんなことを考えていたら、長湯して風邪気味になってしまった。明日までには治さなくては。