春の嵐

雨風が激しい。春の嵐を思い出させるように雨音が戸をたたく。冷たい風の中に春の香りを含んだしめった空気は、何かを私に思い出させようとしている。暖かな湿り気は心の扉を開く力があるのか。昔、夜道で車が迷い、戻ろうとしてユータンの場所を確認するために車から降りて暗闇に立ったことがある。あたりは蛙の鳴き声一色で私はその音に全身を包まれてしまった。その時一瞬感じたのは、時間の逆行感覚である。数年、数十年という近くの思い出をずっと通り越して、何百年、何千年、もしかしたら何万年も前の時間がそこに存在していたような気がした。春の風雨も不思議な時間を運んでくる。過去と未来が混じったような。時間は連続して常に存在しあらゆる過去と未来をそこに含んでいるのだろうか。その感覚は、恋心に似ている。人はなぜ若い時代に恋をするのかが、なんとなく歳をとるとわかってくる。あそこには永遠の時間につながるエッセンスがあるのだ。恋は永遠の時間を得るための儀式なのだよ。だから恋を体験した人はタイムマシン得たのと同じ。信仰も深くなると、神に恋する気持ちになると言う。時間と恋の関係は物理学の認識とは別物だが、過ぎ去る時間、いずれ来る未来、そしてそれをつなぐ現在、三者をつなぐ糸は恋といってもいい。要するに愛が時間をつなげ、存在をゆるしている。写真は目黒自然園ど撮ったもの。